「第8回 レオニード流星群観測小研究会」概要(重野氏による)

日時:2003年2月23日(日)10時−18時(終了後、懇親会)
場所:国立天文台(三鷹)・すばる解析研究棟・大セミナー室→参加約60名
【プログラム】
>>>10:10-11:10【可視光観測セッション−1】
比嘉義裕(日本流星研究会、流星痕同時観測キャンペーン事務局)
「明治大学天文部しし座流星群ロサンゼルス観測隊について」
→アッシャー予報を信じ12名(OB4名、現役8名)が3泊5日遠征し、ロサンゼルス北方約100kmのランカスター付近のモハベ砂漠で2点観測した。ワテックCCD観測で4revの明瞭なピークが得られた。また流星数は2001年並だった。クラスター現象は無かった。流星痕は得られなかった。

田部一志(株式会社 リブラ),竹田育弘,松本孝(明治大学天文部・OB),渡部潤一(国立天文台)
「高感度ビデオカメラによる2001-2002年のしし座流星群の観測」
→2001年は北茨城、2002年はモハベ砂漠のワテックCCD観測の流星数をまとめた。2001年の5分ごとの流星数変化は約15〜30分周期で増減が見られ、フーリエスペクトルを求めた。2002年は滑らかにピークが見られた。時間ごとの平均光度、光度関数を調べるとピーク前よりも後の方が暗い流星が多い結果となった。

藤原康徳(日本流星研究会)
「2002年しし座流星群のTV観測:暗い流星の活発な活動」
→上田昌良氏、川崎康寛氏と4日間、2〜3点観測した。2001年と比べると平均光度が暗くなった。4:30JSTから急激な流星数増が見られた。1965年放出の流星物質と思われるが、88.9m/sの放出速度が必要となる。

上田昌良(日本流星研究会)
「2002年微光のしし座流星雨のTV同時観測結果」
→II+85mmF1.2により2001年しし48個、他33個、2002年しし51個、他42個の同時が得られた。等級別の高度分布を求めた。同じ等級であっても2001年よりも2002年が高度が高いことが分かった。暗い流星が多く、1965年放出の流星物質が2002年に地球に遭遇したものである。

>>>11:10-11:40【流星痕セッション】

戸田雅之(日本流星研究会)
「流星痕同時観測キャンペーンの5年間」
→もっと流星痕を良く見たいとの思いからキャンペーンを続けてきた。その成果としてトータル150流星痕(内同時43)が得られた。多くの仲間が参加し、天文雑誌などでも大きく取り上げられた。

山本真行(通信総合研究所)
「METROキャンペーン2002〜しし群ファイナル〜」
→ヨーロッパ、アメリカ、日本で流星痕の観測計画を立て、観測者同士の情報交換を行った。山本はスペインカナリア諸島テネリフェ島に6名で遠征し2点観測した。7公転、5公転トレイルを観測した。 スペイン3個、アメリカ4個、日本2個の流星痕の報告を得ている。流星雨とは遭遇したが、多くの流星痕は得られなかった。これをもって大規模な流星痕キャンペーンは終了とし、今後は解析に重点を置きたい。ただし定常群の同時流星痕観測を継続する。 流星痕が残るかどうかは:経験的にはしし群の場合−3.5等級以上明るいと流星痕が残りやすい。

>>>11:40-12:10【教育・データベースセッション】

野坂徹(松本大学・松商短期大学部)
「学生によるしし座流星群の観測─教育と研究の架け橋をめざして」
→1999年、2001年の比較をした。潜在的に天文に興味を持つ学生は多い。しかし理科の教育が十分でないため基礎的な説明から始める必要がある。プラネタリウムで疑似体験をしてもらった。観測は松本市内などで行っている。HRの変化を集計時間単位(15分と60分)に変化させたり、観測方向(東西南北)別に調べたりした

宮路茂樹(千葉大学大学院自然科学研究科),村岡,林(千葉大),綾仁(美星天文台),宮本(さじアストロパーク)
「しし座流星群3次元可視化データベースの構築」
→教育面や研究面から見て3次元解析は難しい。しし群は夜間観測であり、一過性の現象のため扱いにくい面がある。そこで立体視可視化法により赤青フィルター、偏光フィルター眼鏡を使用した立体視。これを3Dシアターで見せる。美星天文台、さじアストロパークにおける1時間40個の同時流星を使用した。7千個の恒星と地球を背景表示し、地球上空で任意の視点を設定し立体視できる。

>>>13:30-14:45【可視光観測セッション−2】

嵯峨山亨(日本流星研究会/日本天文同好会)
「2002年のしし群観測結果」
→アリゾナツーソンでの観測報告。1999年以降毎年海外遠征をしており日本では見ていない。マウントレマン海抜2000m付近でII+28mm(視野54度)計数観測を行った。最微6.4等級。年度別、時間別の明るい流星の割合を調べた。フラックスは1999年、2001年と同レベルだった。明るさは暗くなっている。4公転同士を比べると年々暗くなっている。出現数の時間変化は1999年〜2001年は幾つかのピークが見られるが、2002年は滑らかに増加し、ピーク後滑らかに減少している。数個連続のクラスターが3回見られた。

重野好彦(流星物理セミナー)
「しし座流星群の同時TV観測による輻射点と地球向点の関係」
→1993年〜2002年の10年間、欠かさずにしし群の同時TV観測を行うことができた。散在も含めて529流星の輻射点分布が得られ、天球上で直径約50度の範囲に集中部分が見られる。地球向点がこの範囲に含まれる。比較のため10月下旬の179TV同時輻射点、12月上旬の66TV同時輻射点を調べると同様の輻射点の集まりが認められ、その中心付近に地球向点が存在する。一方、マクロスキー&ポゼンの写真データを調べると特に集まりが認められなかった。

平松正顕(東京大学・理学部天文学科)
「2002年しし座流星群カナリア諸島遠征観測報告」
→テネリフェ島標高2140mホテルパラドールで観測した。可視観測装置(II)、紫外分光観測装置を使用。やや曇りがちだったが成果は得られた。IIビデオ上映。本来は乾燥していて晴天率が高い。

菅谷多都子(東京学芸大学)
「2001/2002年の日本上空での(ビデオ観測による)flux比較」(卒業論文)
→2001年の出現でマクノート、アッシャーの予報が的中した。2002年の予報を確認するため観測した。2001年はmetrecソフトで自動検出、2002年は眼視で検出した。大泉村にて観測し、2001年/2002年のフラックスは4.8倍だった。月明かりによる補正をすると14倍になった。2001年11月19日ピークは3:15JST。2001年、2002年ともにピーク予報とのずれは数分だった。2002年11月18日は暗い流星が多く、19日は明るい流星が多かった。

柳澤正久(電気通信大学)
「月面衝突発光」
→そもそも1987年に小天体(cm〜mサイズ:1kg〜10kg程度)の質量分布を知るため研究が始まった。1999年のしし群のときについに観測された。2001年にも再確認。1975年以降衝突発光の実験が行われている。一般的には発光時間がビデオの1コマ(1/60秒)に入ってしまうが、一部の流星は0.1秒程度の発光継続時間がある。これの理由としてはクラスター流星が複数個連続した、衝突後プラズマが残るなどが考えられる。衝突時の明るさと発光継続時間は相関がありそうだ。アメリカでの観測はしし群のトレイルへの遭遇だが、日本での観測はトレイルとは関係ない。数kg程度の流星物質は眼視観測のトレイルと無関係かも知れない。

>>>14:45-15:15【電波観測セッション】

小川宏(筑波大/日本流星研究会)
「流星電波観測国際プロジェクト2001-2002」
→既に電波観測プロジェクトとしてはRMOB、GlobalMS−Netがあるが共有性、速報性が無いのでプロジェクトを立ち上げた。2001年は15カ国91地点、2002年は126地点が参加。しし群だけではなく定常群のプロジェクト観測も始まった。2001年は日の出後小さなピークが見られる。日の出により超高層大気に変化が生じたことが原因か。28MHz:11日ごろから流星数増加、53MHz:17日ごろから流星数増加。検出できる流星等級の違いから、暗い流星は早い時期から増加が始まったようだ。電波観測に多くのサークルが参加し天文サークル以外にも裾野が広がっている。

中村卓司(京都大学宙空電波科学研究センター)
「2002年のしし座流星群レーダー観測」
→MUレーダーでのしし座流星群観測:2002年11月17日〜20日。2001年は明確なピークが得られたが、2002年は明確なピークは得られなかった。 インドネシアスマトラ島での流星レーダー観測:赤道大気レーダーが2001年3月23日から稼動している。赤道付近の3ヵ所(地図上逆3角形)に約500km離してレーダーを設置し4次元観測を行う。現地調査の結果、雑音の少ない37.7MHzを使用。3千流星/日が得られる。MUはその約3倍得られる。11月19日4:35−4:50UTにHR700のピークが得られた。 MUレーダー平成の大改修:受信部のデジタル化を進める。25画素の検出が可能となる。

>>>15:30-16:45【分光観測セッション】

前田幸治(日本流星研究会・宮崎県天文協会),阿部新助(宇宙研),海老塚昇(理研),渡部潤一(国立天文台)
「Na発光の流星群による違い」
→Naスペクトルライトカーブから流星履歴(発光の経過)の一端を知ることができる。Naは揮発性なので母彗星から放出されると減少していく。しし群のスペクトルはNaが豊富に存在し、また発光前半で急激に減少する。グリズム+Y2フィルター+IIにより観測した。しし群、しぶんぎ群はNa比が発光と共に90%程度から急激に減少するが、ふたご群、おうし群では50%程度であまり変化しない。

山田亜希子(日本女子大学・理学研究科)
「フォトポリマーを用いた天体観測用VPHグリズムの作製」
→VPH(Volume Phase Holographic)グリズムのすばる望遠鏡への搭載を目指す。グレーティングは高解像になると作成が困難。フォログラフィックグレーティングとして銀塩などではなくフォトポリマーを使用した。レーザ2光束干渉露光により作成。屈折率変調:フォトポリマーへレーザ光を照射し、格子状に屈折率を変化させることによってグリズムを作成する。2001年のしし群観測では50個/時の流星が得られた。20cmF4反射用のVPHグリズムを作成した。さらにすばる用を試作した。(すみません。内容を十分読み取れませんでした)

海老塚昇(理化学研究所)
「流星分光観測装置の開発」
→1998年のしし群ですばらしい流星痕スペクトルが撮れて以来、回折格子を作成してきた。これが数十地点で使用された。特に直視型観測装置とIIの組み合わせはすばらしい成果が得られている。石英、蛍石を使用して紫外レンズを作成し、紫外スペクトルを狙った。紫外は吸収を避けるため反射型分光器を開発した。2001年はハワイ、野辺山、2002年はカナリア、NASA航空機、野辺山にて観測した。

杉本智(日本天文学会/日本流星研究会)
「永続痕のスペクトルと撮影方法」
→グレーティング+カメラレンズ+II+ビデオカメラ。赤道儀を経緯台のように使い、1軸が常に輻射点を向くようにして、画角にたいして直角に流星が流れるようにした。幾つかのビデオ流星痕の上映。マグネシウムやナトリウムの変化が良く分かる。

阿部新助(宇宙科学研究所・惑星研究系)
「永続痕の紫外スペクトル」
→彗星からのトレイルの解析により、流星雨に遭遇する機会が多くなった。それに伴い流星スペクトルが多く得られるようになった。解析すると600nmよりも短波長側は流星物質に含まれる成分、長波長側は大気の成分である。流星発光4500Kの後、2秒後には1200Kのアフターグローがあり、その後流星痕になっていくと言う意見がある。流星出現後30秒程度までは輝線スペクトルだが、その後は幾つかのバンドスペクトルに移行する。600nm、570nmのFeOが関与しているのかも知れない。金属原子を大気原子が触媒の働きをしているのか。永続痕は流星発光後急激に減光するが100秒以上経過すると減光が非常に遅くなる。これらの発光原理には様々な意見がある。317nmOHが関与しているのかも知れない。今後、宇宙空間に出て紫外領域(100nm程度)の観測を目指している。将来的には人口流星の観測も検討したい。フレッシュな流星群はNaが顕著だが、古い流星群はNaが少ない結果となっている。

>>>16:45-17:15【トレール・予報セッション】

泉潔(日本流星研究会)
「2002年しし座流星群4公転トレイルのピ−ク時刻について」
→なるべく正確な4公転トレイルのピーク時刻を北アメリカツーソンで観測した。眼視とワテックビデオを使用して計数観測を行った。5分ごとにZHRを求めると眼視、ビデオ共に11月19日19:45−50JSTにピークがあった。1分ごとの集計では19:49JSTがピーク(ZHR1600)となった。これは航空機ミッションと分の単位までピッタリ一致した。太陽黄経236.897度。アッシャー予報よりも10分ずれた。ピークよりも前後のほうが明るい流星が多かった。仰角60度程度のしし座の上を観測した。

佐藤勲(中野星の会)
「流星群の出現予報」
→軌道が木星に接近するとアッシャー理論が破綻する。ジャコビニ、ポンウインネッケなどは予報がうまくいかない。アッシャー理論は進行方向にだけ近日点時に放出させる理論だが単純すぎる。母彗星からの放出は全方向とし、近日点以外でも放出させてシミュレーションすべきだ。1965年の放出は近日点前40日、後60日であれば放出速度100m/秒程度で地球に衝突する。それ以外は放出速度が高速になり考えにくい。 1999年ジャコビニはダストトレイルとの遭遇があった。2003年ペルセウス群は698年の近日点時に放出されたトレイルと遭遇するだろう。2003年しし群は1revが接近しヨーロッパで出現するだろう。

>>>17:15-17:45【航空機観測セッション】

杉本雅俊(日本流星研究会/理化学研究所・協力研究員)
「LeonidMAC2002で観測されたしし群同時火球の解析」
→2002年は航空機により2晩同時観測し1個の火球を観測した。2002年11月17日06:49:55UT。HDTV、ワテックを使用した。恒星の光度と8ビット輝度から光度校正を行った。今後:画像の測定、航空機速度を補正した実経路計算、高度と光度変化。

矢野創(宇宙科学研究所・惑星研究系)
「1998〜2002年しし座流星群国際航空機観測ミッション総括(仮題)」
→新しい科学的課題:最微光から月面衝突まで、ダストチューブ内の不均一構造、各トレイルの構造、クラスター流星、赤外・紫外分光、アフターグロー・永続痕、スプライト・エルプス、人工衛星衝突危険性の評価、超高度流星、光度変化。航空機により天候の影響、大気の影響を除くことができる。1998年沖縄上空、1999年地中海・大西洋、2000年カナリーテネリフェ島2200m、2001年ハワイ・野辺山・マウントアイサ、2002年大西洋。